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‘21 5/5 「評伝 開高健 生きた、書いた、ぶつかった! 小玉武 著  筑摩書房」を読んで

40年来、いちファンとして開高さんの文章世界をたのしんでいる。なので本屋でこの背表紙を見つけた瞬間に手が伸びた。

先ずは表紙がくすぐり・ファンなら言わずもがな、柳原良平氏によるイラストだ。そして中身だがかなり突っ込んだ内容に仕上がっている。これまでにも語られてきた既成事実の再編成というようなものとはひとあじ違う。

生前のみならず没後まで非常に近いところで開高家にかかわっておられた著者ならではの内容になっている。

開高文学のファンとしてはこれまで作中のグレイゾーンの部分をいろいろな想像をめぐらしながら「ページに書かれているものも大事だが、何が書かれなかったか、ページの背後にあるものがとても重要である」という開高氏の言葉のままにイマジネーションを膨らませてきた。

開高文学の世界において様々なモチーフやテーマがあるが、中でも最もグレイな部分はやはり度々登場する「おんなたち」の存在だろう。もともとルポルタージュの形式をとった小説群ゆえ、モデルやモチーフとなっている存在や体験をもとにしているだろうことはわかる。ただどこまでが事実でどこからが開高さんの幻想なのか、無数の断片的な事実と幻想のピースが絶妙なパズルに再構築されているのが開高文学の真骨頂であり、読み手を引きずりこまずにおかない魅力である。

ところがそのグレイゾーンの中身を白日の下にさらしたのが本書の凄みだろう。

文章を追ってゆく中でいくつかの新しい面が現れてきた・意外だった。そして増々開高さんが魅力的になった。

これまでも出版関係やメディア等の開高氏に近かった方々には知られていたことなのかもしれないが、おおやけに書かれたものはなかったように思う(あったのかな・・・?)。おそらく渦中の人物諸氏が多く鬼籍に入られた今ならば事実を語れる時期にあると著者が判断されたか。あるいはもう正統に開高伝を語る事ができる者がほとんどいなくなってしまったという著者の想い(焦り)が本書を描かせたものと思いたい。

本書を読んでいると暴露趣味で描かれているわけではないことがわかる。主観をできるだけ排した真摯で端正な文章、時代を共にした仲間たちへの想いや、そして何より開高健氏の文章表現に対する愛情と敬意が抑制されたトーンでにじみ出ている。

あっという間に読んでしまったが、あえて申し上げれば、グレイゾーンはグレイのまま各読者が答えの出ないファンタジーとしてそっと温め続けてゆくのもよかったのかな・・・でも近々また1ページ目から読み返そうとおもう。



ガラス絵 「無題」 ・・・上記文中とは関係ありません



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